「小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン 2014」によると、造血幹細胞移植を受けたほとんどの方は、抗体価の低下や消失が認められ、化学療法後(移植なし)の場合は、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ(ムンプス)の抗体価低下が認められることがあるとのことです。
造血幹細胞移植の有無によって、それまでに獲得した免疫はどれくらい減衰・消失するのでしょうか。詳しく調べてみました。
造血幹細胞移植を受けた場合の抗体価の低下・消失
ほとんどの造血細胞移植患者は、同種あるいは自家移植に関わらず、特異的抗体価の低下および消失を認めるため、感染防御機能の評価として血清抗体価測定すべきである。
引用元: 小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン 2014
27p/CQ9:造血幹細胞移植後はそれまでに獲得した免疫を失うのか
造血細胞移植後はそれまでに獲得した免疫を失うのか
ドナー種類や時間的差はあるものの、大多数の造血細胞移植患者は6か月~1年以内に肺炎球菌、1年前後でインフルエンザ菌、1~2年で破傷風菌に対する防御レベルの抗体を維持できなくなる。また、移植後2年では約50%の移植患者が麻疹、ムンプス、風疹、ポリオに対する抗体が陽性であったが、移植後3~5年で陰性化したと報告されている。水痘・帯状泡疹ウイルスでは、わが国から107例の小児の33%が移植後中央値96日で帯状疱疹を発症したと報告された。
引用元: 小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン 2014
27p/CQ9:造血幹細胞移植後はそれまでに獲得した免疫を失うのか
造血細胞移植の予防接種の必要性
造血細胞移植後は種々の理由にて二次性免疫不全状態が長期化し,感染症に罹患する危険性が高い。さらに移植後は移植前に自然感染もしくは予防接種によって得られた免疫記憶が経年的に低下もしくは消失するために予防接種によって移植後に新たに感染する危険性のある疾患のみならず移植前に免疫能が得られていた疾患に対しても予防接種を行うことによってその発症を予防することが望ましい。
引用元:第75回日本血液学会学術集会「造血細胞移植後の予防接種」名古屋第一赤十字病院小児医療センター 血液腫瘍科 加藤 剛二
ワクチン接種後の長期的なフォローアップ
移植後のワクチンによって獲得された抗体価は永続的ではなく、経時的に減弱する可能性があり、必要性が高いものは再接種する。
- ジフテリアワクチン
- 接種前は153例中81例(52.9%)が防御レベルの抗体価であったが、接種後3年では78.9%まで上昇し、5年後には60.4%まで低下した。
- 破傷風ワクチン
- 接種前より80%の例が防御レベル以上の抗体価を有し、接種後4年まで増加してプラトーとなり、5年以降も95.7%の例が維持していた。
- 百日せきワクチン
- 接種前の防御レベル抗体価保有率は14.3%で、接種後5年でも31.3%にとどまった。
- 麻しんワクチン
- 接種前の30%から接種後1年で66.7%に上昇し、5年後も維持されていた。
- ムンプスワクチン
- 接種前の29.7%から接種後2年以降で50%強に増加し、5年で61.5%が陽性であった。
- 風しんワクチン
- 接種前44.4%が陽性であったが、接種後1年で93.3%が陽性となり、5年で92.3%が陽性を維持した。
- B型肝炎ワクチン
- 接種前51.8%が陽性であったが、接種後2年で77.1%に増加し、5年で72.9%が陽性を維持した。しかし約25%の例で抗体価は陰性であった。
- 不活性化ポリオウイルスワクチン
- 接種前の1型、2型、3型ポリオウイルス抗体価はそれぞれ54.4%、55.6%、56.9%が陽性であり、防御レベルの抗体価は経時的に上昇し、接種後5年で97.9%の例ですべての型が陽性になった。
引用元: 「小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン 2014」
31p/CQ11:ワクチンの接種後も長期的な抗体価のフォローアップは必要か
移植なし:化学療法後の抗体価の低下
化学療法後は液性免疫、細胞性免疫が回復したにもかかわらず、種々の程度に特異的抗体価の低下を認めることがあるため、既往歴、ワクチン接種の有無にかかわらず血清抗体価を測定すべきである。
引用元: 「小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン 2014」
64p/CQ15:小児血液悪性腫瘍患者の化学療法終了後に特異的抗体価はどの程度残存しているか
図5に示すように、化学療法前の抗体陽性率は麻疹で最も高く約80%、以下水痘、風疹、ムンプスの順であった。化学療法前後での比較では、抗体陽性率は 4者とも低下傾向を示すことが明らかであった。
そこで 化学療法がウイルス抗体価に与えるインパクトをより正確に解析するために、被免疫率の影響を排除できる抗体保持率を計算した。さらに、化学療法前後での抗体保持率の低下におけるワクチン群、自然感染群での差異を解析した(図6) 。
【左棒グラフ群】・・・被免疫者におけるワクチン群、自然感染群の割合
麻疹、風疹においてはほとんどがワクチンにより免疫されているのに対して、ムンプスでは自然感染が上回り、さらに水痘においては約90%が自然感染。【中央棒グラフ群】・・・化学療法前の抗体保持率
麻疹、ムンプスではすでに2割程度の抗体減衰傾向が認められる。風疹、水痘では抗体減衰は数%であった。【右棒グラフ群】・・・化学療法後の抗体保持率
すべてのウイルスに対して、抗体保持率の低下が認められ、特に麻疹で顕著であった。化学療法によりウイルス特異抗体価は低下し、特に麻疹で顕著であった。したがって 感染歴、ワクチン歴の有無にかかわらず、化学療法後に免疫能が回復した時点で抗体を測定し、抗体陰性のウイルスに対してワクチン接種を行うことが必要であると思われた。
興味深いことに 自然感染により獲得された抗体は化学療法の影響を受けず、ワクチン接種により獲得された抗体のみが化学療法により陰性化しており、chemotherapy-in-duced secondary vaccine failureともいうべき現象であると考えられた。
引用元: 「基礎疾患をもつ患児に対する予防接種 血液疾患と予防接種」三重大学大学院医学系研究科病態解明医学講座小児発達医学分野 菅秀/2007小児感染免疫 Vol.19 No.4 413
引用