「第11回 小児がんピアサポーター養成研修会」で、田中純 先生(赤坂溜池クリニック)から「向き合う」と「寄り添う」の違いを教えていただきました。
1日目に「ピアサポーターとしての寄り添い方」を、2日目は「コミュニケーション技術」をロールプレイを通して学んだのですが、理解したはずなのに実際に行動に移すとなると難しいものです。
ピアサポーターとしての寄り添い方
「向き合う」ということ
自分の手を2人の「人」だと思って、AさんとBさんが「向き合っている」という形を手で表してください。
この時にお互いに見えているものは何ですか?
相手の顔です。
では、向き合っている時に見えていないものは何ですか?
相手の見ているものです。
「寄り添う」ということ
次に、「寄り添う」という形を手で表してください。
その時に見えているものは何ですか?
相手が見えているものと同じものが見えます。
「向き合う」と「寄り添う」は立ち位置が違う
「この人にはどんなふうに見えているんだろうか」という想像力を働かせようと思ったら、同じ方向を向く。具体的な体のポジションもあるかもしれませんが、それ以上に大事なのは心のポジション。
「向き合う」と「寄り添う」、これを上手に使い分けることによって、相手は「私を見ていてくれる」と感じたり、「私が見ているものを見ようとしてくれている」と感じたりします。
「寄り添う」の表現方法
「寄り添う」を、安全に表現するのに使える方法です。ただ相手と呼吸を合わせるだけ、道具は何もいりません。ただし、相手の体に触れるため、相手の性別が違う時は気をつけて使ったほうがいいようです。
心と体の余計な力を抜く方法
ペアリラクゼーション
- 前の人は座ります。もう一人は前の人と同じ方向を向いて、その後ろに立ちます。
- 後ろの人はちゃんと手を温めてから、前の人の肩にほわっと手を乗せます。
- 前の人の呼吸のテンポに合わせて、後ろの人も呼吸をします。会話は不要。
- 前の人の気持ちがリラックスするまで繰り返します。
ふたりで呼吸を合わせようとするとお互いにリラックスできないので、肩に乗せた手から伝わる呼吸のテンポに合わせて自分も呼吸します。
前の人が見ようとしているものを後ろの人も見ている立ち位置になるので、「私が見ているものを見ようとしてくれている」という安心感につながり、手のぬくもりを通して心身共にポカポカとあたたかくなるのを感じます。
呼吸の速さによって前の人が興奮しているのかリラックスできているのかも伝わってくるので、相手の了承を得られれば話を聴く前にこうしたスキンシップがあると心の開き方も違ってくるかなと思いました。
向き合うと自分が進む方向がわからない
コミュニケーション技術
ピアサポートを実際に肌で感じたロールプレイでした。私の行動は前日に教えていただいたことが全く活かされておらず相手を不安にさせるだけになってしまいましたが、相手のサポートが素晴らしかったため、その違いの大きさに驚くとともに感動しました。失敗から学んだことは大きかった。
まずはペアになって、案内する役と案内される役を決めます。Aさんを案内する役、Bさんを案内される役としましょう。
Aさん
目は開いている(見える)、しゃべってはいけない
Bさん
目は閉じている(見えない)、しゃべってもいい
ふたりで会議室を出て長い廊下を歩き、建物の外に出て広場まで案内します。段差やドアなどの障害物や曲がり角もあります。広場に着いたらAさんはBさんに見せたいと思う場所まで連れて行き、肩をポンと軽くたたいたらBさんは目を開ける、それで案内終了です。障害物や段差がある時の合図は、出発前にふたりで打ち合わせできました。
私とペアになった方は、院内親の会の代表として長く活動していらっしゃる方です。さすが!と思うことばかりで、とても勉強になりました。
私はあなたの盾になります
まずは私が案内役。障害物や段差の合図は、「立ち止まって、段差があるときは私がBさんの膝のあたりを軽く触り、物にぶつかりそうなときは腕に触れて合図を送る」と決めました。
まず私は、Bさんが物にぶつからないように自分が盾になったほうがいいと思い、Bさんと向かい合って立ち、両手をつないで誘導することにしました。
私たちが会議室を出たのは一番最後です。皆さん、腕を組んだり、案内役が前に立ち両肩に手を乗せてもらうなどして出発したのを見て、そのほうがいいかなと思いましたが、やはり盾になることを選択し出発!そして3秒後に後悔することに。
「進行方向に何があるのか、私も見えない!」
私の緊張はすぐにBさんに伝わり、薄暗い廊下に出ると彼女は不安な気持ちを話し始めました。Bさんの手は震え、私は手汗をかいています。
遅れをとってしまったことが焦りとなり、途中でゴミ箱にぶつかりそうになったときはBさんに合図することなく進行方向を少し左に変えたところ、これくらいわからないだろうと思っていたことが「私、真っ直ぐ歩いているのかな?大丈夫かな?」と、さらにBさんを不安にさせてしまいました。
建物の外に出て明るくなると、Bさんは安心したように話し始めた・・・と思ったら!私がスロープに気づかず、またしても合図をすることなく進んだため、最後の最後までBさんを驚かせ不安にさせてしまいました。
広場を見渡すと、案内を終えた方々が至る所で話しをしています。人を避けながらどこかへ行くよりも、早く案内を終わらせてみんながいる風景を見せたほうが安心するだろうと考え、スロープを降りたところでBさんに終了の合図をすると、彼女はとても安心して笑顔を見せてくれました。
同じものを見て・同じスピードで歩く
次はBさんが案内役です。彼女は私の右側に立ち、体を寄せて安定させ腕を組みました。障害物があったときの合図は同じ。私は目を閉じ、さあスタートです。
進む道に何があるのかは通ってきたのでわかっていますが、薄暗い廊下に入ると前にいる人の足音が響いて目の前で聴こえるような気がして、左手を進む方向に突き出して自分でも安全を確かめました。
「すぐ前に人がいるみたいに感じる・・・足音が近くに聴こえるから、前の人とぶつからないかな」
不安な気持ちを口にするたびに、Bさんは組んでいる私の腕をさすってくれました。ゆっくり、やさしく、私の不安を消すように。
Bさんは私の目となって、私が進むスピードで歩き、不安な時は「だいじょうぶだよ」のサインを送ってくれました。自分でも安全を確かめられたのもよかった。
帰りの道のりは行きよりも短く感じました。Bさん、すごい!
小児がんピアサポートに求められること
サポートする側になると自分の考えや経験が前に出てきてしまいがちですが、大切なのは相手が何を必要としているのか、どこへ向かおうとしているのか同じ方向を向いて見るということ。必要なのは盾ではなく、相談者の感情を共有すること。
経験者が何から何まで準備して、相談者をレールの上に乗せることではないんだな。さて、私はこれをちゃんと実践できるだろうか。Bさんの手の震えは今も鮮明に覚えているので、思い出しながら相談者に寄り添えるような活動をするぞ。
第12回 小児がんピアサポーター養成研修会のお知らせ
さて、次回のピアサポ研修会は2020年2月29日(土)~3月1日(日)に九州大学病院で開催されます。
私の親友がいる九大病院小児医療センター親の会「すまいる」さんが中心となって、準備を始められました。そろそろ参加者募集開始になるかな。今回は参加希望者が多く、予定よりも早く申込を締め切ってしまったので、次回参加希望の方はお早めにお申し込みください。1日目の懇親会も、思い切って参加してみてください。素敵な出会いがあるはず。