中日新聞くらしの作文「背くらべ」2011.5.11

『背くらべ』

「お母さん、小さくなったね」
中学生になった長男が、
私と頻繁に背くらべをするようになった。

年々背中が丸くなっていく私の祖母に会うたびに
横に並んでは背くらべしていたが、
とっくに追い越してしまって、次の目標は私だ。

実家の柱には、息子とおいっ子たちの成長の印が記されている。
長男に会うたび「大きくなったね」と目を細める母は
私より少し背が高いので、まだ背くらべをしてもらえないようだ。

背筋を伸ばして並ぶと、
私と長男の肩の位置があまり変わらなくなってきたのに驚く。
昨年暮れに学生服の採寸をした時、
ズボンの丈を長めにしてもらったのに、
もうくるぶしが見えるほど短くなってしまった。

人見知りが激しく、
いつも私の陰に隠れて周りの様子をうかがっていた子が、
私と肩を並べて歩くようになった。

「お母さんはまだまだ小さくならないよ」
長男の成長が嬉しくて、でもちょっぴり寂しくて、
私はかかとを少し上げてみた。

競うようにしてつま先立ちした長男が
誇らしげに私を見ながら
「あと少しやなぁ」
と、にやっと笑ってつぶやいた。

2011年5月11日(水)中日新聞くらしの作文に掲載されました

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