中学校のPTA講演会で、中村亜綺さんから「家庭でできるキャリア教育」を教えていただきました。難しい話になるのかと思っていたら、その答えはとてもシンプル。

「子どもが自分への理解を深められるように、親は子どもの成長を見守りながらサポートしていく時期です。一方的に親が教えるのではなく、子どもの良さや価値観を引き出して共に考えられるよう、会話をする時間をつくってください」

息子とのやりとりを振り返ってみると、自分の経験や考えを話して一方的に「こうしたほうがいい」と結論を出すことが多かったな・・・。だから息子は、私に話さなくなったんだ。「お母さんに言っても、わからないことだから」「どうせダメって言われる」「ぼくを認めてくれない」・・・改めて心に突き刺さる。

早速、講演内容をテープ起こしして、それをまとめてPTA広報紙の原稿作りにとりかかりました。

中村亜綺さん講演会「家庭でできるキャリア教育」

キャリアとは

「キャリア」とは、プライベートも含め、仕事を中心にした全人生のことです。生活の中で何に興味があって、何が好きで何ができるというところから職業選択をする瞬間もあるので、仕事とプライペートは密接に関わっているのです。そして、社会で生きていくための力を養うことを「キャリア教育」といいます。

キャリアの構図

キャリアは大きく分けて、「内的キャリア」と「外的キャリア」から成り立っています。あなたはどんなことが好きで、どんな価値観をもっていて、何が得意な人ですか、という内的キャリアがわかって、そこで初めて職業選択(外的キャリア)ができます。
人と関わることが好きで、人と話すことが好きで、そこに「人をサポートしたい」ということが入ると、講師・教師・キャリアカウンセラーなどの職業があります。「人をリードしていくことが好き」であれば、司会業・アナウンサー。「正しいことを世の中に伝えたい」場合は報道官など。自分の中に何をもっているかというところから、いろいろな組み合わせによって職業選択がなされていくのです。
経験を重ねることにより内的キャリアはどんどん増えて成長しますが、外的キャリアは時代の変化に応じて増えたり減ったりしています。現時点で、内的キャリアと外的キャリアはどうなっているのか理解することが必要です。

発達課題とキャリア

小学生(基礎形成)

将来への夢や希望を持つ頃です。宿題をする、時間を守るなどのルールを覚え、班長や委員会などの仕事の中で、人の役に立つことや達成した喜びを実感する時代です。

中学生(現実探索・暫定的選択)

 学校の授業も少し難しくなり、クラブ活動で賞を取る子もいれば、どんなに頑張ってもなかなかうまくならない子もいて、自分の中で得意不得意が見えてくる頃です。自分はこれができる、この場面で必要とされている、という自己肯定感。この部分ではダメかもしれないけれど、こういうところでは役に立っている、自分はここに存在していていいんだ、という自己有用感を獲得します。
お花屋さんが好き、野球選手になりたいという夢や希望から、もう少し現実を見るようになります。自分ができることは何だろう、それがまわりの人にどんな影響を与えるのだろうと考えるようになり、少しずつ職業観を形成しはじめます。高校へ入ってから変わることもあるので一旦の目標設定として、自分の興味関心をある程度明らかにしたうえで暫定的に選択します。

高校生(社会的移行)

高校卒業後に就職する人も多いので、選択基準として「働くこと」を考える時期になってきます。何をしたいのか、それは何のためにやるのか、自分にとってどんな価値があるのか――こんな問いに答え始め、高校3年間でさらに具体的に自分の将来を考えて見極めます。
いろいろな学校から人が集まり、広い世界の中で自分の立ち位置が見えてきます。狭いコミュニティーの中で自分がどんなに優れていると思っていても、社会へ出るともっとすごい人はたくさんいます。現実として受け止め、そこから自分はどうしていくのか考えなければいけません。できる自分もダメな自分もひっくるめて今の立ち位置を受け止めることができれば、さらに広い人間関係の中で、自分に対する理解が深まっていきます。

大学新卒者に求める人材像

企業にアンケートをとった結果が、2012年7月16日の日本経済新聞に掲載されていました。「コミュニケーション能力がある人」が60%を占め、「責任感」「協調性」など学生が面接でアピールする項目は15%以下と低く、これらはもっていて当たり前と考えられているので重要視されていないことがわかります。
上司や同僚とコミュニケーションがとれるのはもちろんのこと、他分野、異業種の方ともきちんと会話ができ、相手が言っていることを理解して、わかりやすく説明できる能力が求められています

学生時代の経験・実績で高く評価できるもの

自己肯定感や自己有用感が欠落して、3D「でも・だって・どうせ」が口癖の若者が多くなっています。何かを任されたときに、もしかしたらできないかもしれないけれど、とりあえず頑張ってみます、というチャレンジ精神が求められています。何かをやり遂げて達成感を味わった経験があれば、チャレンジ精神・主体性・意欲・情熱・行動力があると判断されます。

新卒者の採用面接で重視するもの

質問に対して的確に答えられる力や、どのような経験をして、それによってどのように成長したのか、企業は重視しています。また、変化の速い時代を生きる臨機応変な対応力もみています。礼儀正しい態度やハキハキした話し方、自己アピールの表現力などはできて当然なので、今更重視することではありません。

社会の変化とキャリア

社会の大きな変化とともに、企業が求める人材のハードルが上がってきています。昭和30年代から50年代は物を作れば売れる時代で、労働者の目標は終身雇用と出世でした。物が増えることが豊かさの象徴となり、共通の幸福観や価値観を持っていました。現代は物が売れない時代となり、終身雇用が崩壊。物欲よりも精神的な安定を求める人が増え、幸せや価値観が多様化しました。
変わった価値観を持つ人たちと一緒に仕事をするためには、論理的に「なぜそれに価値があると思うのか、なぜそれをやりたいと思うのか」、筋道を立てて相手に説明してわかってもらわなければいけません。働き続けるためには、価値観を共有できなければいけない。お互いに理解しあえなければいけない。だからこそ、入社前の段階でミスマッチを防ぐためにも、あなたの考えと価値観を教えてくださいと聞かれるのです。

生涯発達を続けるキャリア

人を納得させるだけの説得力ある話ができない学生が多くなりました。質問に対する的確な答えができない。暗記する力、言われたことを言われた通りにする力はある。努力は惜しまず頭がいいので、頭脳ですべて考えてしまう。しかし、自分自身を見つめることをしていないので、答える言葉を持っていないと、面接で追いつめられているように感じるようです。学生の間に、内的キャリアを見つめ考える習慣をつけてほししいです。
理系を目指しているお子さんの親さんは気をつけていただきたいです。理系の人は理解が早いので、学力で身につけたものを語り、大企業に受かってしまうことがあります。そういう人には幹部になってもらいたいと企業は考えているため、いろんな部署を経験させようと、人事異動がよくあります。けれど、専門思考的に物事を深めていきたくてこの会社を選んだのに、異動ばかりでやりたい仕事ができなくなったと会社を辞めてしまう。子どもたちが考える環境を、家庭の中でつくってください
経験すると、冷蔵庫の中身(内的キャリア)はどんどん増えて(成長して)いきます。外的キャリアは、時代の変化に応じて増えたり減ったりしています。現時点での内的キャリアと外的キャリアは、どうなっているのか理解することが必要です。

考える環境をつくる

キャリアというのは、幼少時代からつながっています。急に思いついたのではなく、自分の中でじっくり考えて、私はいまこんな結論を出しましたと筋道を立てて説明する力が必要なので、早い段階から、自分はどんな価値があるんだろう、自分はどんなことに興味があるのだろう、自分は何を大事だと思っているのだろう、と考える習慣というのは非常に大事です。
子どもたちが考える環境を、家庭の中でつくりましょう。ポジティブな思考を習慣化させるために、できた理由を考えさせます。できたことに対して、「どうしてできたと思う?」という問いかけは、自分を見つめ直す良いきっかけになるキーワード。どうしてできたかわかったら、次はそれを意識して何かをやってみてください。ダメな過去を振り返るのではなく、できる未来へ向けていきましょう。
聞くのが当たり前の環境をつくれば、答えるのが当たり前、考えるのが当たり前になってきます。即答が出来なくても、日常生活で考えるようになるのです。人の脳は、人に何かを聞かれて答えられないと、そこにポコッと空白ができます。この脳の空白は埋まるまで、それに関連した情報を探し続け、普段だったら気にしていないのに、何かの瞬間で考えるようになります。いい空白をつくる会話をしてほしいと思います。

「考える」から「共に考える」へ

心理学者ジョセフ・ルフトとハリー・インガムが、「人間の中には四つの窓がある(ジョハリの窓)」と提唱しました。自他ともに知っている「開かれた窓」、自分は知っているが、他人は知らない「隠された窓」、自分は知らないけれど他人は知っている「盲目の窓」、自他ともに知らない「未知の窓」です。
親が知っていて子どもが気づいていない部分は教え、盲目の窓を開いてあげてください。対話の中で隠された窓も開かれていくと、「私はこんなことができるかもしれない」という未知の窓が開く瞬間が訪れ、新たな可能性の発見につながります。これが、家庭でできるキャリア教育の重要なポイントといえます。
そして、子どもなりの人生を共に走っていく「伴走者」という立場にシフトしていくのが、中学生の保護者にできるキャリア教育の基礎の姿勢ではないかと感じています。

中村亜綺さん講演会「家庭でできるキャリア教育」

出来上がったPTA広報誌。中村亜綺さん講演会「家庭でできるキャリア教育」特集記事。