造血幹細胞移植等の医療行為によって、治療前に受けた予防接種の抗体が減衰した場合、ワクチン再接種費用を自治体で補助してもらいたいという声が全国に拡がっています。そして、令和2年度から助成制度を創設した自治体が増えてきました。
自治体によって助成対象者は違い、その多くは「骨髄移植等を受けた方」が対象となっています。造血幹細胞移植を受けていない場合は、抗体検査や再接種をしなくても良いのでしょうか。
今回は、名古屋大学医学部附属病院小児科の伊藤嘉規 先生(名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学・准教授)にお話を伺い、「抗がん剤治療後(化学療法後)のワクチン再接種」についてまとめました。
造血幹細胞移植の有無で、再接種するワクチンに違いはあるの?
複数の小児がん経験者のお母様に伺ったところ、造血幹細胞移植の有無によって、再接種するワクチンに違いがあることがわかりました。化学療法終了後のワクチン再接種のガイドラインはあるのでしょうか。
長期FUガイドラインから
わが国では,予防接種ガイドライン等検討委員会や日本造血細胞移植学会から小児がん患者に対するワクチンガイドラインが示されているが,化学療法後の小児がん患者を対象とした実践的なガイドラインがなく,全国の小児がん診療施設で経験的な診療が行われている状況である。
引用元: 「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」VI.予防接種ガイドライン 小児がん患者(長期フォローアップ対象の小児がん経験者を含む)に対するワクチン接種
小児がん拠点病院:名大病院の場合
小児がん拠点病院は全国に15か所あります。そのうちのひとつ、名古屋大学医学部附属病院ではどのように再接種が行われているのでしょうか。同病院小児科の伊藤嘉規 先生(名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学・准教授)にお話を伺いました。
名古屋大学小児科では、血液腫瘍診療グループと感染症診療グループが共同で、治療後の予防接種を行っています。
造血幹細胞移植をしていない子どもたちの再接種に関して、標準的な対応は明確でなく、各診療施設の判断で行われているのが現状です。当施設での対応を中心にお答えしますね。
予防接種を行う疾患の中で、通常の検査会社が測定でき、その数値から予防接種の必要性を判断できるのは、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜとB型肝炎になります。
B型肝炎は、定期接種になって間もなく、接種している患者さんは少ないので、抗体を測定する場合には、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜを選択する場合が多いと思います。
名古屋大学医学部附属病院 小児科では、抗体測定の意義を説明し、ほぼすべての患者さんで、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ(・B型肝炎)の抗体価を確認後、接種スケジュールを考えています。
再接種しても抗体がつかなかった場合はどうする?
当院では、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜについては、1回目の再接種後に抗体上昇を認めない場合には2回目の再接種を推奨しています。
1回目の再接種費用は助成されても、2回目の再接種は任意接種となり、費用が発生します。
2回目の再接種後でも抗体上昇が認められない場合は、麻疹・風疹・水痘については3回目の再接種を提案しています。これも任意接種となります。
3回の接種で抗体価の上昇が認められない場合は、抗体以外の免疫反応を強くするような一定の効果があったと期待し、それ以上の接種は行いません。例えば、水痘の感染では抗体による液性免疫ではなく、特定のリンパ球による細胞性免疫応答の役割が大きいのですが、これは通常の検査では測定できません。測定できるのは、抗体による免疫応答を予測できる抗体量のみだからです。
B型肝炎の場合には基本的に3回接種分が1つのセットのようになりますので、これまでの接種回数や測定値により、個別に接種スケジュールを勘案します。
再接種後の抗体検査も、再接種前の抗体検査と同様に保険診療外となります。当院では、基本的に抗体検査を行い、効果を確認していますよ。
小児がん拠点病院に指定されている名大病院が、化学療法後の再接種をどのようにしていらっしゃるのか知ることができ、他の病院も参考になるのではないかと思いました。</>
伊藤先生、ありがとうございました。
名古屋小児がん基金
本記事を作成するにあたり、名古屋小児がん基金の繋がりで、名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学・准教授 伊藤嘉規先生にお力添えいただきました。心より感謝致します。また、伊藤嘉規先生とご縁を繋いでいただいた同大学 教授 高橋義行先生に深く感謝申し上げます。
名古屋小児がん基金のHPには、最新の小児がん研究内容が公開されていますので、ぜひご覧ください(当サイト管理人は、名古屋小児がん基金の運営スタッフとして基金のホームページ更新を担当しています)。