赤色の表紙と「白血病」の文字が目を引く1冊の本。1cmほどの厚さがあり子ども向けの本には見えませんが、これほどわかりやすく丁寧に身体・病気・治療について記載されている本はないと思います。ただ単に病気や治療の説明だけで終わることなく、患児自身が病気と向き合い、身体も心も健康になるように今何ができるのか考えられる内容になっています。
この本は、子どもに語りかけるような文章で不安や恐怖も受け止めてくれる言葉が所々に散りばめられ、聞いたことを書き込める白いページも用意されているので気持ちの整理をしながら読み進めることができます。白血病になったお子さんとそのきょうだいに、現状とこれからの話をするときに大変役立ちます。お子さんが白血病と診断されたご両親におすすめしたい一冊です。
「君と白血病」の目次と内容・感想や体験談
内容は申し分なくとても良い本ですが、値段が2,800円(税別)もするため購入に躊躇される方も多いと思います。下記に内容を記載しましたので、購入を検討していらっしゃる方の参考になれば幸いです。
君
君のからだ
細胞
細胞のイラストやDNAのモデルなども掲載されていて一見難しそうに感じますが、難しい言葉、たとえば「細胞」は「君の部品」、「遺伝子」は「君をつくりあげる計画書」など、子ども向けにわかりやすく表現されています。
器官とその系列
エネルギーのもとをつくりだす「消化器系」とそれを利用できるように酸素を運ぶ「呼吸器系」。成長のもととなるホルモンをつくる「内分泌系」、いらなくなった老廃物を捨てたり再利用する「排泄系」、統制をとるための司令室が「神経系」、からだの中の道路「循環器系」、そして、骨・筋肉・皮膚、血液。これらひとつひとつを例え話やイラストを使って説明しているので、幼稚園年長だった長男でも興味を持って話を聴いていました。
血液
血液の役割
赤血球、白血球、血小板の働きと、それがうまく機能しなくなったとき(貧血、血小板減少症、感染症)はどうなるのか書いてあります。さらに「顆粒球」「単球」「B-リンパ球」「T-リンパ球」についても働きの違いがイメージしやすいように表現されていて、自分の身体の中にいるたくさんの戦士の存在に気づかせてくれたページです。
血液はどこでつくられるのか?
血液の工場「骨髄」とそこにある「幹細胞」について。幹細胞を1人の兵隊に見立てて、成熟するまでの過程や未熟なままだとどうなる?子どもたちと一緒に考えながら、話は進んでいきます。
そして白血病
白血病とは?
5行目に「白血病は、白血球の癌」とハッキリ書いてあります。しかも「がん」とふりがな付きで戸惑いましたが、「癌=死」のイメージを持っていない、そもそもガンが何かさえわからない長男は気にすることなく、弟のからだの中にいるばい菌マンがどんな悪さをするのか気になっていました。
白血病の原因は?
次男の病気がわかり、後悔と自責の念に押し潰されそうになっていた私を救ってくれた言葉。前に進もう、進むしかないと思えるようになった瞬間でした。
君が白血病になったのは
誰のせいでもないし
誰にもどうしようもなかったんだ。
環境因子
遺伝子と染色体、白血病の発病に何らかの関わりをもっていると思わせること。
環境因子
染色体やDNAが傷つく原因「放射線」「化学物質」「ウイルス」について、わかっていることを丁寧に解説し、わからないことに関しては「科学者たちもあきらめないで研究を続けている」と記されているので心強かったです。
免疫学的因子
この子のからだに欠陥があったから白血病になったの?その疑問に対する答えがあります。「世界中の人たちが白血病の原因を見つけようと努力している。君達のために!希望をもとう!」この言葉にも支えられました。
白血病のいろいろ
急性リンパ性白血病(ALL)と急性骨髄性白血病(AML)の説明と違いについて。
先生たちはどんなふうに君の白血病を診断するのか?
いちばんよくある白血病の症状と特徴のほか、血液と骨髄検査方法とその結果どのようなことがわかるのか、血液検査は8ページ、骨髄穿刺は10ページにわたって詳しく書いてあります。先生や看護師さんが、患児や親が理解できるような形でどのような処置をするのか説明してくれればよいのですが、実際は口頭で処置の流れを説明されるだけで終わることも少なくありません。
血液検査と骨髄検査は治療中に何度も行う痛みを伴った検査ですので、次男が何をされるか知らず恐怖で泣き暴れることが少なくなるように、どうしたら安全に痛みを少しでも軽く短くすることができるのか、このページを3歳の次男と一緒に読んで考えて検査に備えました。もちろん検査を怖がり嫌がりましたが、抱っこして採血したり、麻酔が効くまでそばにいてやったりしたこともあり、何も知らないまま検査を受けたときとは大違い。落ち着いて処置を受けられました。
先生たちは白血病をどう治療するのか?
いろいろな薬を使う「多剤併用療法」と、それよりもきつい「骨髄移植」について。「民間療法」について考えるページもあります。
白血病の合併症
「貧血」「血小板減少症」「感染」「中枢神経白血病」「骨の痛み」「腎臓での問題」「性腺への浸潤」について。親にはとても気になる項目ばかり。読みながら暗い気持ちになりそうですが、ここでも最後に心のスイッチを切り替えてくれた言葉があります。
この合併症の項は 君を心配させるために書いたんじゃないんだ。おこるかもしれない いろんなことがらを知っていて 生活することは だいじなことだからね。
(中略)
何かおかしいな と思ったら 先生に連絡してよね。
それからね 知ってるかい?
先生たちは とくに何か特別なことがおこらなくても 君たちから調子がいいよと 元気だよっていう連絡をもらうと とてもうれしいんだ。
「合併症は必ず起きることではない、元気に暮らせる日が続くことを信じて進もう!」そう思えるようになりました。
この一日を貴重な一日に
白血病といっしょにに生きていくということ
「この章のほとんどは 君がつくるんだ。君自身のためにね。」この言葉から始まり、白紙ページの使い方が記され、「もし 君の白血病が完全に治ったら(中略)その日がきたら どんなにすばらしいだろう。」で結ばれています。ネガティブな私が専門書を読むと、いつも絶望的な思いで本を閉じるのですが、この本は違います。現実を突きつけられても、「だいじょうぶ、治る」自分に言い聞かせることができます。
抗がん剤の副作用と対処法、脱毛した時はどうする?長生きできないの?そのような不安にも丁寧に向き合っています。また、病院にはどんな仕事をする人がいて誰に何を聴いたらいいのか、同じ病院で治療を受けている友だちやきょうだいとの関わり方についても参考になります。
治療
知りたいけど話を聞いてもわからないだろうと思っていたものについて説明した章です。
化学療法
薬剤の効能と副作用。ビンスクリチン(オンコビン/VCR)、プレドニソン(プレドにソロン/プレドニン/デキサメサゾン/デカドロン)、L-アスパラギナーゼ(ローナーゼ/Aps/L-ASP)、ダウノルビシン(ダウノマイシン/ルビドマイシン/DNR)、メソトレキセート(アメソプテリン/MTX)、6-メルカプトプリン(ロイケリン/プリネトール/6-MP)、サイトシンアラビノシッド(キロサイド/アイレチン/アラビチン/サイタラビン/サイトサー/Ara-C)、6-サイオグアニン(6-TG)、5-アザシチジン(5-アザ)、サイクロフォスファマイド(サイトキサン/CTX)、ビス-クロロエチルニトロスリア(ガーマスチン/BCNU)。
中心静脈カテーテル
中心静脈カテーテル(CVカテーテル)はどのようなものなのか、どのように身体に取り付けるのか、カテーテルのケアについて。
腰椎穿刺
中枢神経白血病の予防や治療のため脊髄に抗がん剤を入れる髄注処置時の流れや、先生が何を調べているのかわかります。検査の前日は次男とこのページを読んで事前準備をしました。
放射線療法
放射線量の計算、照射部分、処置の流れ、副作用について。ここにも、子どもが不安にならないような工夫があります。
輸血
輸血による肝炎と免疫の問題、副作用について。血液型の説明もあります。
骨髄移植
骨髄移植の流れ、問題点、GVHDについて。
免疫療法
この本が発刊された当時に、どのような研究をしていたのか紹介されています。
そして月日は流れ、36年後・・・今、名古屋大学と信州大学小児科合同チームが研究する免疫療法「キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法」が注目されています。光が見えてきました。