絵本「おにいちゃんが病気になったその日から」の紹介

おにいちゃんが病気になったその日から 佐川奈津子

きょうだい児本人の経験から生まれた絵本。

著者の佐川さんは、小学2年生の時に3歳年下の弟が脳腫瘍と診断され、寂しく不安な日々を過ごしました。表紙のような不安で寂しい雰囲気の絵がほとんどで、内容も明るい話ではありませんが、考えさせられる内容ですので、きょうだい、特にご両親に読んでいただきたい1冊です。

今日はこの絵本の内容と、息子たちが幼いころに読み聞かせをした時のエピソードを交えてご紹介します。

講義資料
「おにいちゃんが病気になったその日から」

(東北大学 医学部保健学科看護学専攻 小児看護方法論 講義資料)
目次

ストーリー

幸せいっぱいの日常生活を送る家族に、突然の不幸が訪れます。激しい頭痛に襲われたお兄ちゃんを連れて、お母さんは出かけていきました。主人公はお父さんと留守番していましたが、やがてお父さんも出かけてしまい、大きな家でひとりぼっちになってしまします。

病院のベッドに横たわる兄、何も説明してくれない両親・・・主人公は不安を抱えながら、両親を心配させまいと、感情を抑え込んで我慢します。

主人公は時間の経過とともに、病気になった兄が自分からお母さんを奪い、独り占めしていると思い始めます。そして、お見舞いに行った時に意地悪なことを言う兄に対して、「嫌い」という感情が表れるようになります。

入院は長期間になります。主人公は毎週お見舞いに来ているのに、病院では誰も声をかけてくれません。「ぼくは頑張っている」「ぼくだって、お母さんと一緒にいたい、独り占めしたい」込み上げる感情を必死で抑え込むうちに、「我慢できないぼくを叱る自分」が常に存在するようになりました。

最後の2行で、兄が亡くなったことが記されています。兄を失った悲しみについては描かれておらず、きょうだい児が両親に言いたくても言えない言葉や葛藤をストレートに表現した絵本です。

「嫌いになってしまった自分を好きになれるよう、がんばる」

長男が本音で話せるきっかけを作ってくれた絵本です。私はこの絵本を読みながら、白血病の次男ばかりに気をとられていた自分に気づき、反省することが多く、長男と一緒にいる時間を大切にしようと心がけるようになりました。

きょうだい児への読み聞かせ

あとがきに書かれていた「病気とたたかっているきょうだいがいるあなたへ」は、著者の佐川奈津子さんからの手紙になっていて、どの言葉も包み込んでくれるようなやさしさがありました。

長男が小学4年生の時、眠る前の読み聞かせでこの絵本を選びました。小学1年だった次男は話が理解できないようで眠ってしまいましたが、長男は共感できる部分が多かったのか(多かったというより、すべてだったかも)、鼻水をすすったり目をこすったりして涙をこらえているような様子で、あとがきも含めて絵本を読み終え長男を見ると、目を潤ませていました。

うまく言葉にできなかった長男の感情が、この1冊に詰まっていたのでしょう。

 心やさしいあなたは、自分はなんにもがんばれていない、と思うときがあるかもしれない。でもほんとうはそんなことないんだよ。あなたは、あなたのきょうだいといっしょに、同じだけがんばっているのです。目には見えないけれど、あなたのたいせつなきょうだいと同じように、あなたもまた、病気とたたかっているのです。

わたしは、がんばっているときのあなたも、くじけそうになっているときのあなたも、大好きです。

引用元: 「おにいちゃんが病気になったその日から」あとがき

入院中は病気の子どものことでいっぱいになり、きょうだいの相手をする心の余裕はありませんでした。「嬉しい時の笑顔」「疲れているときの笑顔」、同じように笑顔をつくったつもりでも子どもはよく見ています。

ほんの少しでもいいから、目の前にいる「きょうだい」のことだけを考えて、「愛している」と言葉にして抱きしめる時間をもっともっと作るべきだった。何度も後悔しました。

病気の子どももがんばっている。そして、きょうだい児もがんばっている。どちらがどれだけ頑張っているのか、それは比べられることではなくて、どちらもがんばっている。そして、お母さんもお父さんもがんばっている。

たまには親子で、夫婦で、互いのがんばりを認めつつ、本音で向き合い、声を出して涙を流すのもいいかもしれません。

苦しんだ体験、絵本で訴え(日本経済新聞)

2001年に自らの体験を基に、病児の兄弟の気持ちを描いた絵本「おにいちゃんが病気になったその日から」(小学館)を出版した佐川奈津子さん(29)。「私と同じように寂しい思いをしている子の気持ちを親はもっと理解してほしい」というメッセージを本に込めた。彼女は今も心の傷が癒えずに苦しむ「きょうだい」の1人だ。

3歳下の弟が脳腫瘍(しゅよう)と診断されたのは、佐川さんが小学2年の時。弟は4年近く入退院を繰り返した後、短い生涯を閉じた。闘病中、母親は弟に付きっきりで、「ずっと寂しかった」。亡くなった後も、周囲からは「かわいそうな子」という目で見られ、「悲しい姉を演じ続けなければならなかった」。

“心のダム”が決壊したのは大学1年の時。通学初日の電車の中で「ほしいのは平凡な学生生活でなく母親の愛情」。そう思った佐川さんは大学を中退、自宅に引きこもる日が続いた。数年前に病院で「パニック障害」と診断され、今も治療に通う。1人では不安で外出できないため母親が必ず付き添うが、最近は2人で遊園地に遊びに行けるようになった。

寂しいときは寂しいと言い、楽しいときは思いっきり笑ってほしい。そして親は何も言わずに抱きしめてあげて」と佐川さんは訴える。

引用元: 日本経済新聞

講義資料
「おにいちゃんが病気になったその日から」

(東北大学 医学部保健学科看護学専攻 小児看護方法論 講義資料)
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